事業承継を控えた経営者が見直したい個人保証の3大ポイント!
株式会社 結コンサルティング
「制度の概要と監督官庁のスタンスは理解しましたが、金融機関への説明が一番大変ですね。これまでのように、決算書を渡して終わりではなく、試算表や資金繰り表などの定期的な開示もしなければなりません。何よりも、財務基盤を強化して、業績堅調かつ十分な利益と内部留保を確保しなければならないのですから・・・実際の対応としてどのようなことをすればよろしいでしょうか?」──金融庁と日本政策金融公庫コラボセミナー後の懇親会で、ご一緒したサービス業の社長からのご質問です。
「社長の場合、後継者への事業承継も5年後を目処に考えていらっしゃるので、できるだけ個人保証は外しておきたいですよね。法人個人の一体性はないですし、業績もコロナ禍明けで回復基調ですので、現在構築中の会社を組織で回す仕組みを整えれば、金融機関との関係性構築を積極的にやるだけで十分だと思います。」と回答させていただきました。
【経営者保証に関するガイドラインについて】
というのも、「経営者保証に関するガイドライン」では、次の3つの要件を将来に亘って充足すると見込まれるときは、金融機関が経営者保証を求めない可能性や、代替的な融資手法を活用する可能性を検討する旨が規定されています。
1.法人個人の一体性の解消
2.財務基盤の強化
3.財務状況の適時適切な情報開示
そして、社長のところでは、1の法人個人の一体性の解消は問題ありません。2の財務基盤の強化ですが、社長の人間関係やスキルに依存していない会社に変えるために、現在、儲かるビジネスモデルと自走する組織(従業員が自ら考え、対話し、行動する)を構築中であることをきちんとご説明いただければ、金融機関側も十分に理解していただけると思います。最後に、3の財務状況の適時適切な情報開示についてもご説明が必要です。
先ほど、ご自身でおっしゃられたとおり、決算書を渡して終わりではなく、試算表や資金繰り表などの定期的な開示もしなければなりませんので、最低限、四半期に1回は試算表と資金繰り表を金融機関に持参してくださいね。
それでは、「経営者保証に関するガイドライン」の概要を確認していきましょう。https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline.pdf
1.概要
「経営者保証に関するガイドライン」は、金融関係者、中小企業団体、専門家等の研究会(事務局:全国銀行協会・日本商工会議所)にて策定された業界の自主ガイドライン(法的拘束力なし)であり、平成26年2月から適用開始。
策定された背景としては、中小企業の経営者による個人保証には、資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や、保証後において経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生を阻害する要因となっている等、中小企業の活力を阻害する面もあり、個人保証の契約時および保証債務の整理時等において様々な課題が存在しており、それらの課題に対する解決策の方向性を取りまとめたもの。
2.経営者保証徴求時の対応
①法人個人の一体性の解消
・社会通念上適切な範囲を超える法人から経営者への貸付等による資金の流出の防止
・経営者が法人の事業活動に必要な本社・工場・営業車等の資産を所有している場合、法人所有とすること 等
②財務基盤の強化
・業績が堅調で十分な利益(キャッシュフロー)を確保しており、内部留保も十分な場合
・業績はやや不安定だが、業況の下振れリスクを勘案しても、内部留保が潤沢で借入金全額の返済が可能と判断できる場合
・内部留保は潤沢ではないものの、好業績が続いており、今後も借入を順調に返済し得るだけの利益(キャッシュフロー)を確保する可能性が高い場合 等
③財務状況の適時適切な情報開示
・本決算の報告のほか試算表、資金繰り表等の定期的な開示 等
3.保証債務の整理
法的個人破産手続きに依らずに保証債務を整理する手続きや、その際の保証人の残余財産・弁済額の範囲について規定。
*経営者保証に関するガイドラインによる保証債務整理は、信用情報機関に報告・登録されない。
4.事業承継時に焦点を当てた特則
事業承継時に焦点を当てた特則
https://www.zenginkyo.or.jp/fileadmin/res/abstract/adr/sme/guideline_sp.pdf
①特則策定の背景・目的
・後継者候補が経営者保証を理由に事業承継を拒否する場合があり、地域経済の持続的発展に支障をきたす可能性
・経営者保証が事業承継の阻害要因とならないよう、円滑な事業承継を促す観点から、事業承継時に焦点を当てた特則を策定し、令和2年4月から運用開始。
②特則の概要
前経営者、後継者双方からの二重徴求
事業承継時の前経営者、後継者双方からの二重徴求を原則禁止。
例外的に真に必要な場合として以下を限定列挙し、拡大解釈による安易な二重徴求が行われないようにする。
・前経営者が死亡し相続確定までの間の一時的な二重徴求
・法人から前経営者に対する多額の貸付金等の債権が残存しており、後継者が前経営者の保証を解除しないことを求めている場合
・金融支援を実施している先等であって、前経営者から後継者へ多額の資産等の移転が行われているなどの特段の理由により、前経営者と後継者の双方から保証を求めなければ、金融支援を継続することが困難となる場合
・前経営者、後継者の双方から、専ら自らの事情により保証提供の申し出があった場合
後継者からの保証
後継者に対して保証を求めることで事業承継が頓挫する可能性も考慮し、ガイドラインの要件を満たしていない場合でも、事業承継計画の内容等をもとに、後継者から保証を求めないこととできないか柔軟に検討。やむを得ず保証を求める場合でも、後継者の負担が最小限にならないか検討。
このように、経営者保証を提供することなく資金調達を受ける場合の要件等を定めた「経営者保証ガイドライン」の活用促進等の取組が進められてきました。
これらのことにより、新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合は、2017年の16.5%から2022年の33.2%に倍増。また、事業承継時に二重保証(前経営者・後継者)を徴求している割合は、2017年の36.9%から2022年の3.3%へと大幅に減少しましたが、まだまだ十分とはいえる水準ではありません。
【経営者保証改革プログラムについて】
経営者保証に依存しない融資慣行の確立を更に加速させるため、経済産業省・金融庁・財務省による連携の下、「経営者保証改革プログラム」が策定され、2023年4月より提供開始となりました。https://www.fsa.go.jp/news/r4/ginkou/20221223-3/01.pdf
金融庁においては、民間金融機関による融資に関し、監督指針の改正により、保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させることとしています。
また、「経営者保証ガイドラインの浸透・定着に向けた取組方針」の作成、公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進めることとしています。
1.金融機関が個人保証を徴求する手続きに対する監督強化
監督指針の改正を行い、保証を徴求する際の手続きを厳格化することで、安易な個人保証に依存した融資を抑制するとともに、事業者・保証人の納得感を向上させる。
①金融機関が経営者等と個人保証契約を締結する場合には、保証契約の必要性等に関し、事業者・保証人に対して個別具体的に以下の説明をすることを求めるとともに、その結果等を記録することを求める。【23年4月適用開始】
(保証契約締結時に詳細な説明が必要となる事項)
・どの部分が十分ではないために保証契約が必要となるのか
→ 可能な限り、資産・収益力については定量的、その他要素については、客観的・具体的な目線を示すこと。
・どのような改善を図れば保証契約の変更・解除の可能性が高まるか
→ 経営者保証の解除に必要な収益力の改善や、ガバナンス体制の整備について、認定経営革新等支援機関が伴走支援を行う際の着眼点等を示した「収益力改善支援に関する実務指針」が中小企業庁より公表済。https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/download/05/03_01.pdf
②①の結果等を記録した件数を金融庁に報告することを求める。【23年9月期実績報告分より】
(※)「無保証融資件数」+「有保証融資で、適切な説明を行い、記録した件数」=100%を目指す。
③金融庁に経営者保証専用相談窓口を設置し、事業者等から「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」などの相談を受け付ける。【23年4月運用開始】
④状況に応じて、金融機関に対して特別ヒアリングを実施。
2.経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革
また、「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」の作成、公表の要請等を通じ、経営者保証に依存しない新たな融資慣行の確立に向けた意識改革を進める。
①金融機関に対し、「経営者保証に関するガイドラインを浸透・定着させるための取組方針」を、経営トップを交え検討・作成し、公表するよう金融担当大臣より要請。
②地域金融機関の営業現場の担当者も含め、監督指針改正に伴う新しい運用や経営者保証に依存しない融資慣行の確立の重要性等を十分に理解してもらうべく、金融機関・事業者向けの説明会を全国で実施。【23年1月より】
③金融機関の有効な取組みを取りまとめた「組織的事例集」の更なる拡充及び横展開を実施。
3.金融機関の取り組み状況
2023年5月9日の日経新聞朝刊に「地銀 経営者保証求めず 10行超、融資慣行見直し」という記事が掲載されました。
経営者保証に関する方針として、「原則、経営者保証を求めない」とした地銀が13行、「プロパー融資の経営者保証を廃止」とした地銀が1行、の合計14行が経営者保証を求めない方針を公表しています。
今後も、各金融機関のホームページで経営者保証に関する方針が公表されていくと思われますので、ご自身の取引金融機関のホームページは適宜ご確認ください。
【経営者として取り組むべきこと】
これまで、経営者保証について直近の動きを確認してきましたが、実際に個人保証を解除するためには、経営者であるあなたが自発的に行動を起こす必要があります。
1.現状確認&金融機関への融資打診
「経営者保証に関するガイドライン」にもあるように、個人保証に依存しない融資を実行してもらうには、次の3つの要件を将来に亘って充足すると金融機関に確信してもらわなければなりません。
・法人個人の一体性の解消
・財務基盤の強化
・財務状況の適時適切な情報開示
ご自身の状況を、今一度ご確認いただき、3つの要件を充足していると思われるのであれば、是非とも金融機関に個人保証なしでの新規融資を申し入れてください。
2.既存融資の個人保証解除打診
個人保証なしでの融資が実行されたら、既存の融資についても保証解除の交渉をしてみましょう。これは、新規融資よりもハードルが高いので、金融機関から難色を示されることが多いと思います。
金融機関が難色を示した場合は、既存融資の借り換えを打診してみてください。借り換えで借入条件の変更(金利引き上げ、担保など)だけでなく、個人保証が必要とされた場合には、
・どの部分が十分でないために保証が必要になるのか?
・具体的に、どのような改善を図れば保証が不要となるのか?
を確認しましょう。
3.上記改善項目について、改善案を策定の上で実施
金融機関より不十分とされた項目(経営者保証の解除に必要な収益力の改善や、ガバナンス体制の整備 等)について、認定経営革新等支援機関が伴走支援を行う際の着眼点等を示した「収益力改善支援に関する実務指針」を参考に、求められる水準での改善を実施。
アクションプランの策定、PDCAサイクルの実施 等
4.改善完了後、個人保証解除の申し入れ
金融機関に求められた水準の改善が完了した時点で、個人保証解除の申し入れを行い、保証解除手続きへ。
改善しているのに、保証解除に応じてもらえない場合には、金融庁の経営者保証専用相談窓口に相談するとともに、他行へのメインバンク変更も視野に。
(メインバンクの変更は、いろいろなデメリットがありますので、あまりおすすめはしませんが・・・)
5.保証解除手続き
無事に保証解除が金融機関内で決裁となったら、保証解除関連書類に調印。
保証解除手続き完了となります。
【まとめ】
事業承継を控えた経営者が個人保証を見直す際のポイントは次の3つ。
①法人個人の一体性の解消
②財務基盤の強化
③財務状況の適時適切な情報開示
「経営者保証に関するガイドライン」では、これらの要件を将来に亘って充足すると見込まれる場合、金融機関が経営者保証を求めない可能性や代替的な融資手法を検討することとされている。
「経営者保証ガイドライン」の活用により、新規融資に占める経営者保証に依存しない融資の割合が増加しているが、まだ改善の余地があるとされており、経済産業省・金融庁・財務省による「経営者保証改革プログラム」が策定され、個人保証に依存しない融資慣行の確立が進められている。
各金融機関も個人保証に対する方針を公表し、個人保証を求めない地域銀行が増加していることから、新規融資だけでなく、既存融資についても保証解除の交渉を行い、個人保証解除の申し入れを積極的に行いたい。
あなたは経営者として、どのように金融機関との関係性を構築し、個人保証の解除に取り組みますか?